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2011年1月16日 (日)

「Jリーグの行動科学」を読んでみました

ご紹介を受けて、「Jリーグの行動科学~リーダーシップとキャリアのための教訓」を読んでみました。

Jリーグの行動科学―リーダーシップとキャリアのための教訓 Jリーグの行動科学―リーダーシップとキャリアのための教訓

販売元:白桃書房
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神戸大学大学院経営学研究科教授の高橋潔氏を編著者に、同氏のほか、Jリーガーでもあった佐藤慶明氏(大阪産業大学人間環境学部講師)と重野弘三郎氏(社団法人日本プロサッカーリーグHRディベロップメントグループ)、そして「リーダーシップ」「キャリア」の両面に造詣の深い金井壽宏・神戸大学大学院経営学研究科教授らの手によるこの本は、Jリーグ(あるいは日本サッカー界)を題材にした「リーダーシップ」と「キャリア」の本。引退した元プロサッカー選手へのヒアリング調査を中心にした分析で、現職Jリーガーはもちろんのこと、プロスポーツ選手やプロスポーツ選手を目指している人、さらには私たちビジネス・パーソンに「教訓」を提供しようという意欲作です。

前半は主にリーダーシップを、後半はキャリアをテーマに構成されています。
リーダーシップについては、まず「チームの勝利に貢献するものは何か」そして「選手のやる気を引き出すものは何か」を、試合中のデータや年俸などを重回帰分析等の統計的手法で検討しています。分析ではまず勝ち試合、負け試合にどのような要素が関与しているかを「身体能力(日本代表としての出場試合数)」「知的能力(学歴)」「インセンティブ(年俸)」「モティベーション(Jリーグ公式戦出場数)」「役割行動」「役割外行動」「公平性(警告カード数)」で検討しています。興味深いことに、実は年俸はそれほど(というかほとんど)勝ち試合には貢献していません。さらに個人の成果(出場回数や出場時間など)と年俸とを時系列で捉えると、前年の「試合出場時間」「勝ち試合出場時間」からの影響の方が強く、翌年の「試合出場時間」「勝ち試合出場時間」にはあまり結びついていないということも分かりました。つまり、年俸は意欲を駆り立てるモティベーション要因というよりはむしろ結果に対する報奨としての色彩の方が強いようです。逆の言い方をすると、高い年俸を約束しても実際に活躍できるかどうかは分からないということですね(当たり前といえば当たり前かもしれませんが)。

その出場時間は選手起用を決める監督の意志決定に左右されます。
そこで監督のリーダーシップがクローズアップされることとなるわけですが、本書では監督側の分析として「監督のタイプ」、そしてフォロワー側、つまり選手側の分析として「監督と選手との相性」の2つの面が取り上げられています。関心が持たれるのは、選手へのヒアリング調査を基にした「相性」についての考察で、相性をよくするための手がかりとして、認知的相性と情動的相性と2つの要素でとらえることを提起しています。両者が相まってマイナス方向に動き始めると、つまり「あの人と私は価値観や目標が合わない」(認知的相性のズレ)と「あの人と私はウマが合わない」(情動的相性のズレ)という負の連鎖が発生すると、出場の機会はますます訪れなくなり、選手生命も脅かされることとなります。筆者(この章の担当は滋賀大学経済学部講師の服部泰宏氏)はこうしたことを避ける方法として、選手自身が積極的なコミュニケーションをとることを提唱しています。特に比較的言語化しやすい認知的相性を改善することで負の連鎖の発生、進行を食い止めることができるとしており、またこのプロセス自体が適切な自己理解にもつながるとしています。

後半は、自分なりのキャリア目標を達成したトップ・アスリートがその座を離れ、これまでとは違う仕事、役割へと方向転換するまで、つまりキャリア・トランジションをテーマとしています。中でも「役割退出理論」に基づく20人に及ぶ元Jリーガーへのヒアリング調査結果の分析は、選手の内面の変化を詳しく捉えた優れた質的研究となっていると思います。この章の担当は現在、Jリーグキャリアサポートセンターの専任スタッフとして活動している重野弘三郎氏ですが、氏自身が元Jリーガーであり、キャリア・トランジションを経験しているだけに、ヒアリング対象者の本音がよく現れているのではないでしょうか。
「役割退出理論」とはH.R.F.イーボウが提唱しているもので「最初の疑問」「可能性の模索」「転換点」「新たな役割の獲得による以前の役割からの脱皮」の4つのプロセスで、ある特定の役割からの離脱、解放の過程を記述しようとするものです。ヒアリング調査の結果、こうしたプロセスを経ていることがJリーガーにおいても確認されたほか、プロ選手になる前、あるいはプロ選手になってから、自分の位置づけ、将来について疑問や不安を抱くことが、結果的に引退後のキャリア・トランジションによい影響を与えていることが示唆されました。このことは、「プロ選手であれば、活躍する自己像を固く信じ、その後のことなどについて不安を抱いたりすることなく自信を持って完全燃焼するものだろう」といった観戦者のある種の思い込みを揺るがすものであり、程度はあろうと思いますが、自分自身を客観的に見つめる目を持つことが必要であるという点で、私たち一般社会人とも共通するところがあると感じます。
Jリーガーのキャリア・トランジションに関するもう一つの分析は近畿大学経営学部准教授の小川千里氏によるもので、トランジションを成功させる要素として選手自身の「カレジャスネス」と、周囲の人の「アプローチャビリティー」を指摘しています。 前者のカレジャスネスとは「苦しみながらもあきらめないで粘り強く突き進む選手たちの『勇敢な心構え』」を指しており、クルンボルツの「計画された偶発性(Planned Happenstance)」の概念を引きながら、選手時代はどちらかというと自らの技量向上とプレーにばかり向けていた関心を、周囲に向け、積極的に人との接点を構築し、関わっていこうとすることの重要性を指摘しています。 それをより実現しやすくするのが後者の「アプローチャビリティー」です。トランジション後について職業情報をはじめとした様々な情報を持っていて(集約した情報)、また選手を親身になって受けとめられて(受容)、しかもいつでもコンタクトができて説得し続けてくれる関係が構築されており(継続性)、かつ秘密が厳守される(守秘)という4つの特性を備えた人(アプローチャビリティーの高い人)が選手の周囲に存在することの重要性を指摘しています。小川氏はこれら2つの要素は、Jリーガーらに限られたことではなく、若年層はもとより、中高年層などについても意義あるものとしています。

Jリーガーへのヒアリング調査を中心に、リーダーシップ、キャリアについて検討された本書は、それぞれの領域の第一人者である金井氏によるビジネスの世界への援用も含めた再整理でまとめられています。この部分は、Jリーグにおいての研究を整理するだけでなく自分自身の知識を整理する意味で役に立つでしょう。

ところで、金井氏が書かれているように「サッカー」は「野球」と対比されて、組織の在り方、そしてその中でのプレーヤーの考え方、動きなどが比喩的に取り上げられることが少なくありません。野球が攻撃の都度、監督から指示が出されるのに対して、サッカー(あるいはラグビー)はひとたびボールが動き始めると、後は選手のその場その場の瞬間的な判断に任せざるを得ないという違いがあるからです。その自立性の高さはどこからくるのか、うまく連携、機能するには選手(メンバー)に、そして組織としてどのような用件を整えておくことが必要なのか、そうしたことへの関心があるのです。そうしたこともあって、「Jリーグでの『リーダーシップ』と『キャリア』」といわれると、「試合はもとよりその前後も含めた監督のリーダーシップの在り方のこと?」あるいは「試合中に選手がいかにリーダーシップをシェアしあっているかということ?」とかに関心が向きますし、キャリアという面では、「フィールドに出て自立的にプレーする選手のキャリア意識は一般とどう違うの?」「チームに対するコミットメントとキャリア意識の関係は?」など、いろいろと思いつくのですが、残念ながらそうした内容は含まれていません。
リーダーシップについていえば監督の4つのタイプは示されているものの試案であって実在する監督に当てはめたり、それぞれのタイプがどのように効果を発揮するのか、あるいはしないのかの検証はなされていません(この章は佐藤慶明氏によるもの)。「タイプに分類して考察してみたが、それぞれに特徴が見られる。どのタイプが素晴らしく、どのタイプがダメなタイプなのかは一概には言えない」では、タイプに分けた意味がないのではないでしょうか?
さらに冒頭にある統計的な分析の試みついても、野球と違ってサッカーについては検討可能なデータが少ないと前置きしてあるものの、「マネーボール」(データ分析により選手獲得資金の乏しい弱小チームを、カネにモノを言わせて選手補強をするチームをしのぐほどに育成させたアメリカプロ野球チームの監督の実話)を引き合いに出すのであれば、サッカーの試合において評価可能な指標としてどのようなものを検討してみるとよいのかというところまで述べてあるとおもしろいのではないかと思われます。先のワールドカップでの長友選手のようなDFながら果敢にゴール前に顔を出す驚異的な運動量、あるいは先日のアジアカップ、シリア戦で長谷部選手の先制ゴールのきっかけとなった本田選手のように敵DFをうまく引きつけてゴール前にスペースを作ろうとするFWが献身的な動きなど、ボールそのものに絡まない部分や自己犠牲的な動きをいかにくみ取るか。そうした部分が難しいとこの章担当の高橋氏は述べられていますが、研究領域である「人事評価」の知見を活かして何らかの示唆があると充実したものになったのではないでしょうか?

またキャリアについては、トランジションについての検討がほとんどです。
「プレーとキャリア意識(特に内的キャリア)との関係」だとか「プロ選手になると決めたきっかけやその時期」などは取り上げられていません。 また、トランジションを支援するカレジャスネスとアプローチャビリティーが必要というのはまさにその通りなのですが、このことはJリーガーに特有ということではないように思われます。特にアプローチャビリティーについていえば、引きこもり若年者に対する支援として効果を上げているアウトリーチでも同様の傾向がみられます。Jリーガー研究を教訓とするというよりはむしろ、こうした考え方がプロ・アスリートについてもいえそうだということの意味の方が強いのではないでしょうか?
これとは別にJリーガーがピッチを去るということをキューブラ・ロスの死に臨む5つのプロセスを用いて説明するという試みがなされていますが、これには行き過ぎ感があります。プロ・アスリートにとってはそれほどまでに強烈な出来事であるということなのかもしれません。果敢な挑戦であると思いますが、その後のない「死」と、続きのあるキャリア・トランジションとを同列に扱うことは妥当でしょうか?

金井氏は「読後も継続して考え学び続け、熟達してほしいことが、かなりあるように思われる。それをどのように導き出すのかは、読者一人ひとりの読後の課題であり、経験と感性によって、本書から引き出される教訓は違ってくる」と書いていらっしゃるので、「あんまり得ることがありませんでした」というと「それはあなたの考えが及んでないからでは?」といわれてしまいそうなのですが、分析に用いられている理論や考え方は実は一般社会人で用いられているものが多く、Jリーグで得られた知見を一般化してビジネス・パーソンに役立てるというよりは、プロ・アスリートでも一般社会人と同様のことが言えそうですねぇというのが話の流れとしては適切なような感じがします。「教訓」として本書が役に立つのはプロ・アスリートまたはそれを目指している方々の方が多いのではないかと思います。

とはいえ、白桃書房のハードカバーというと「学術書」としてちょっと腰が引けそうな感じですが、本書は大変読みやすく、なかでも重野氏の「第5章プロサッカー選手のセカンド・キャリア到達過程」はJリーガーの心の動きが赤裸々に描かれていてとても興味深いものとなっています。この続編が待たれるところです。

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